作成日:2024/06/10
更新日:2024/10/23
厚生労働省は、令和6年介護報酬改定にて生産性向上委員会の導入と新加算「生産性向上推進体制加算」を発表しました。
生産性向上推進体制加算の制度は、介護現場の生産性向上を目指し、介護ロボットやICT機器の活用後、継続的な改善とデータ提供をすることを評価する加算です。
これは、新たな加算となるため、「加算をどうやって取得すればいいの?」と疑問を抱いている方もいるかもしれません。
そこで、今回は、生産性向上推進体制加算の概要の取得に向けてのポイントや考え方を解説していきます。
ICT機器の概要と具体例も併せて紹介していますので、ぜひ最後までご覧ください。
生産性向上推進体制加算について
生産性向上推進体制加算は、介護現場の生産性向上を目指し、介護ロボットやICT機器の活用後、継続的な改善とデータ提供をすることを評価する加算として令和6年に新設されました。
厚生労働省の資料「令和6年度介護報酬改定における改定事項」について介護保険に関する最新情報を調べると、以下のように説明されています。
【生産性向上推進体制加算の概要】
・介護現場における生産性の向上に資する取組の促進を図る観点から、介護ロボットやICT等のテクノロジーの導入後の継続的なテクノロジーの活用を支援するため、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、生産性向上ガイドラインの内容に基づいた業務改善を継続的に行うとともに、一定期間ごとに、業務改善の取組による効果を示すデータの提供を行うことを評価する新たな加算を設けることとする。 【告示改正】
・加えて、上記の要件を満たし、提出したデータにより業務改善の取組による成果が確認された上で、見守り機器等のテクノロジーを複数導入し、職員間の適切な役割分担(いわゆる介護助手の活用等)の取組等を行っていることを評価する区分を設けることとする。 【告示改正】
引用:厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」
生産性向上推進体制加算が目的としているのは、「利用者の安全の確保」「介護サービスの質の確保」「介護職員の負担軽減」「ICT化の促進」の4つです。
生産性向上に向けた委員会を設置・運営し、ICT機器の導入後に定期的なデータ提供をすることが取得の条件となります。
なぜ加算が導入された?
生産性向上推進体制加算が導入された背景には、「少子高齢化による介護需要の増加」と「介護業界の人材不足」が挙げられます。
日本の高齢者の人口は年々増加しており、2024年時点での65歳以上の人口は3622万8000人、75歳以上の高齢者人口は1997万人です。
このまま行くと、2070年には2.6人に1人が65歳以上、4人に1人が75歳以上になると言われています。
このようなデータから、少子高齢化による介護需要が増加し人手不足となっていることが分かります。
介護需要が増加しているにもかかわらず、介護業界の人材が不足しているため、1人1人の生産性や効率化の視点に着目されているのです。
関連して厚生労働省が発表している「介護人材確保に向けた取組」によると、介護職員は2025年度には約243万人、2040年度には約280万人が必要になると言われています。
つまり、1年間に約5.3万人の介護職員を追加で確保しなければいけません。
このように「少子高齢化による介護需要の増加」と「介護業界の人材不足」の問題を解消するために、生産性向上推進体制加算が新設されました。
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対象となる施設一覧
生産性向上推進体制加算の対象となるのは、「施設系サービス」「短期入所系サービス」「居住系サービス」「多機能系サービス」を提供している施設です。
具体的には、下記の16の施設が対象になります。
【対象となる施設一覧】
短期入所生活介護 | 地域密着型介護老人福祉施設 | 介護予防短期入所生活介護 |
短期入所療養介護 | 看護小規模多機能型居宅介護介護 | 予防短期入所療養介護 |
特定施設入居者生活介護 | 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | 介護予防特定施設 入居者生活介護 |
小規模多機能型居宅介護 | 介護老人保健施設 | 介護予防小規模多機能型居宅介護 |
認知症対応型共同生活介護 | 介護医療院 | 介護予防認知症対応型共同生活介護 |
地域密着型特定施設入居者生活介護 |
訪問介護施設や通所施設は対象外のため、注意しましょう。
生産性向上推進体制加算の概要
生産性向上推進体制加算には、加算(Ⅰ)と加算(Ⅱ)の2つの区分があります。
基本的には、加算(Ⅱ)の取得後に、加算(Ⅰ)を取得するのが一般的なため、今回は
加算(Ⅱ)・加算(Ⅰ)の順に解説いたします。
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)
加算(Ⅱ)の概要を、単位数・算定要件・必要な提出データの観点から解説いたします。
【単位数】
・毎月10単位
【算定要件】
・利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会を設置する
・見守り機器、インカム、介護記録ソフトウェア等のICT機器を1つ以上導入している
・生産性向上ガイドラインの内容に基づき業務改善を継続的に実施する
・事業年度毎に1回、厚生労働省に実績データを提出する(オンラインで実施)
【必要な提出データ】
種類 | 内容 | 対象 |
---|---|---|
利用者の満足度評価 | WHO-5調査の実施・生活・認知機能尺度の確認 | 利用者(5名程度) |
業務時間及び当該時間に 含まれる超過勤務時間の調査 | 10月もしくは算定月における、介護職員の総業務時間と超過勤務時間(一月あたり) | 介護職員(全員) |
年次有給休暇の 取得状況の調査 | 10月を起点とした、介護職員の1年間の年次有給休暇の取得日数 | 介護職員(全員) |
加算(Ⅱ)では、見守り機器などのICT機器を1つ以上導入していれば算定可能ですので、導入費用に対しては少なく済むのが特徴です。
また、委員会活動を適切な手順で実施している場合に限り、提出したデータから成果が確認できなくても算定が認められます。
生産性向上推進体制加算(Ⅰ)
続いて、加算(Ⅰ)の概要を、単位数・算定要件・必要な提出データの観点から解説いたします。
【単位数】
・毎月100単位
【算定要件】
・加算(Ⅱ)の要件をすべて満たしている
・見守り機器、インカム、介護記録ソフトウェアなどのICT機器を複数導入している
・職員間の適切な役割分担(介護助手の活用など)を行なっている
【必要な提出データ】
種類 | 内容 | 対象 |
---|---|---|
利用者の満足度評価 | WHO-5調査の実施 ・生活・認知機能尺度の確認 | 利用者(5名程度) |
総業務時間や 超過勤務時間の調査 | 10月もしくは算定月における、介護職員の総業務時間と超過勤務時間(一月あたり) | 介護職員(全員) |
年次有給休暇の 取得状況の調査 | 10月を起点とした、介護職員の1年間の年次有給休暇の取得日数 | 介護職員(全員) |
介護職員の 心理的負担の軽減 | ・SRS-18調査 (心理的ストレス反応を測定) ・モチベーションの変化に係る調査 | 介護職員(全員) |
機器導入による 業務時間の調査 | タイムスタディ調査の実施(5日間) | 介護職員(複数人) |
加算(Ⅱ)との違いは、ICT機器の導入数と提出書類の数です。
加算(Ⅰ)では、厚生労働省が推奨している「見守り機器」「インカム」「介護記録ソフトウェア」等のICT機器を複数導入しなければいけません。
また、「職員間の適切な役割分担」や「業務内容の明確化や見直し」が求められ、介護職員が働きやすい環境づくりを行い処遇も改善していく方向性が必須です。
申請方法について解説
ここからは、生産性向上推進体制加算の申請方法について紹介いたします。
まずは、必要な提出データを揃えましょう。
上記で説明した通り、加算(Ⅱ)と加算(Ⅰ)では必要書類が異なるため、提出前にしっかりと確認してください。
加算に必要なデータを、事業年度毎に厚生労働省へ提出します。
データの調査期間は、「直近の1年間」「直近の同期間」「システム導入前と導入後の期間」の比較から選択可能です。
詳細は、「生産性向上の取組に関する実績データの厚生労働省への報告についてp.7」を参照してください。
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加算取得に向けてのポイント
次に、加算取得に向けてのポイントを解説いたします。
・ガイドラインの把握
・生産性向上委員会の設置
・介護助手の導入
・ICT機器の導入
上記のポイントを踏まえ、生産性向上推進体制加算取得をスムーズに行いましょう。
ガイドラインの把握
まずは、厚生労働省が公表している「介護分野の生産性向上ガイドライン」を把握しましょう。
生産性向上推進体制加算の目的は、見守り機器などのICT機器を導入し、「生産性向上ガイドライン」に基づいた業務改善を継続的に実施することです。
厚生労働省のホームページには、「施設系サービス」「居宅系サービス」「医療系サービス」に分かれたガイドラインが掲載されているので、当てはまるものを確認しておきましょう。
生産性向上委員会の設置
3ヶ月に1度以上の生産性向上委員会の開催が、加算の取得要件になっています。
委員会のメンバーには、管理者・介護職員・ユニットケアリーダーなどが含まれ、以下のような活動をします。
【生産性向上委員会の主な活動内容】
課題の把握 | 介護業務における生産性の低下が発生している原因や問題点を明確にする |
---|---|
対策の検討 | 把握した課題に対して、具体的な解決策や改善策を検討する |
実施計画の策定 | 検討した対策を実行に移すための計画を立てる |
改善活動の実施 | 計画に基づき、改善活動を実施する |
効果の検証 | 実施した改善活動の効果を評価し、必要に応じて計画の見直しをする |
上記の活動は、介護サービス・ケアの質の向上、利用者の安全の確保、そして介護職員の負担軽減を目的としています。
また、加算取得の際には、加算算定する月より前に委員会を開催しなければいけません。
4月から算定したい場合は、4月以前の委員会の実施と議事録等の確認が必須となるため、あらかじめ計画を立てて進めましょう。
介護助手の導入
加算(Ⅰ)を取得する際は、介護助手の導入をしましょう。
介護助手の役割は、食事の片づけや施設内の掃除、備品の準備、ベッドメイキングなどの補助業務を行い、介護職員の負担を軽減することです。
介護助手の導入以外にも、介護を伴わない業務を外部委託する方法もあります。
ICT機器の導入
ICT機器を導入し、業務の効率化や介護職員の負担軽減、サービスの質の向上を図ります。
次の章で、厚生労働省が導入を推奨している「見守り機器」「インカム」「介護記録ソフトウェア」の3つのICT機器の概要を紹介いたします。
ICT機器の概要と具体例
続いて、ICT機器の概要と事例を紹介します。
ICT機器の要件とは
ICT機器には、それぞれ要件が定められています。
生産性向上推進体制加算(Ⅱ)では、1つ以上のICT機器の導入、加算(Ⅰ)では複数のICT機器を導入しなければいけません。
介護施設や利用者の特性に合わせたICT機器を導入しましょう。
見守り機器の導入
見守り機器は、利用者の動きを感知するセンサーのことで、すべての居室に設置しなければいけません。
具体的には、人感センサー、バイタルセンサー、シルエットセンサーなどです。
見守り機器の要件としては、以下を満たす必要があります。
利用者がベッドから離れようとしている状態又は離れたことを感知できるセンサーであり、当該センサーから得られた情報を外部通信機能により職員に通報できる利用者の見守りに資する機器をいう。
なお、見守り機器を居室に設置する際には、利用者のプライバシーに配慮する観点から、利用者又は家族等に必要な説明を行い、同意を得ることとし、機器の運用については、当該利用者又は家族等の意向に応じ、機器の使用を停止するなどの運用は認められる。
\見守り機器の導入事例はこちらから/
https://lashic-care.jp/case_facility
インカムの導入
インカムは、離れた場所にいる介護職員が同時に会話できるICT機器です。
例えば、介助中の介護職員に対して離れたフロア・場所からも状況を伝えられたり、従業員同士のコミュニケーションが円滑になるのがメリットとなります。インカムの要件は、以下の通りです。
インカム(マイクロホンが取り付けられたイヤホンをいう。)等の職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器(ビジネス用のチャットツールの活用による職員間の連絡調整の迅速化に資するICT機器も含む。)
\弊社のインカム活用についてはこちらから/
https://lashic-care.jp/press/bonx
介護記録ソフトウェアの導入
介護記録ソフトウェアは、介護記録の作成効率化に役立ちます。
見守り機器と連携させることで利用者の状態を自動で記録したり、請求業務や事務の手続きの効率化、介護職員の負担を軽減しケアに集中できるようになったりする点がメリットです。
介護記録ソフトウェアの要件は、以下の通りです。
介護記録ソフトウェアやスマートフォン等の介護記録の作成の効率化に資するICT機器(複数の機器の連携も含め、データの入力から記録・保存・活用までを一体的に支援するものに限る。)
生産性向上のためにできる7つの取り組み
最後に、生産性向上のためにできる7つの取り組みを紹介いたします。
生産性向上推進体制加算の算定を検討している場合は、事業所全体で生産性向上に向けた取り組みを実施しましょう。
取り組み | 内容・目的 |
---|---|
①職場環境の整備 | 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の視点に基づいた環境整備をする |
②業務の明確化と役割分担 | 3M(ムリ・ムダ・ムラ)を無くし、業務を効率化する |
③手順書の作成 | 手順書を作成し、業務の判断スピードを向上させる |
④記録と報告のスタイルの検討 | 情報が簡単に読み取りやすくなるように様式や書式を工夫する |
⑤情報共有の工夫 | インカムなどのICT機器を活用し、スムーズな情報共有をする |
⑥OJTのマニュアル化 | 現場での実地研修(OJT)をマニュアル化し、教育担当による指導のばらつきをなくす |
⑦理念・行動指針の徹底 | 全職員が理念・行動指針を把握し、均質化した対応を取れるようにする |
詳細は、「介護分野における生産性向上の取組の進め方(厚生労働省)」に記載しているため、ぜひ参考にしてください。
まとめ
本記事では、生産性向上推進体制加算の概要の取得に向けてのポイントやICT機器の導入と具体例を紹介しました。
生産性向上推進体制加算には、2つの区分がありそれぞれ算定要件が異なります。
「ガイドラインの把握」「生産性向上委員会の設置」「介護助手の導入」「ICT機器の導入」を通して、制度を活用し生産性向上推進体制加算取得に向けて取り組むかどうか検討しましょう。
また、生産性向上のためにできる取り組みがわからない、その他見守り機器について加算の取得と合わせて話を聞いてみたいという方は、以下のお問い合わせボタンより、ぜひお気軽にご連絡ください。